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なぜMotoGPは日本に行くべきか:トビー・ムーディ氏のコラム

autosport.comより、私が信頼するジャーナリストの一人、トビー・ムーディ氏のコラムを翻訳。
長いですが、がんばって訳します。
今回はほんとに長いので「つづき」方式で。
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パドックにおける議論のなかでジャーナリストがMotoGPライダーから「あんたバイクの乗り方ってもんをわかってるの?」と聞かれることは何度となくあるものだ。

1998年にザクセンリングが復活することについて、かなり熱い議論が繰り広げられたとき、私もミック・ドゥーハンから同じことを聞かれた。彼の伝説的ライダーは相当頭に来た様子で、私は殴られるかと思ったものだ。少なくともこの件で私は栄誉ある(しかもごく限られた)「ミックを怒らせたクラブ」に入ることになったわけだが。

しかし、今回の件は、我々ジャーナリストがマシンを速く走らせる術を知っているかどうかという話ではない。逆にジャーナリストの方がライダーより状況をよくわかっているのである。こんなことはライダーにとって初めてであり、それでもライダーたちは戦闘モードになっているらしい。放射線の話だ。

念のためこれまでの状況をおさらいしてみよう。もてぎでの日本GPは当初4月24日に予定されていたが、3月に日本を襲った地震と津波から日本が回復するのを待つために10月2日に延期された。しかしその後原子力発電所からの放射能漏れが起こってしまったのである。

心ある人は誰でもYouTubeや生放送ニュースを通じて広まった爆発する原発の画像にショックを受けたことだろう。少なくない日本人がいるMotoGPのパドックも、カタール開幕戦に皆が集まった時点ですでに影響を受けていた。本来いるべき人がおらず、工場が被災したことでHRCはパーツ供給を減らすのではないかとの噂も広まったのだ。

パドックは「がんばろう日本」のバッジやステッカーやTシャツを売ることで、一体となって日本を支援した。ピットにいる誰もが日本を思って一致団結していたのである。誰もが日本人と働いている、つまり誰もが日本に何らかの形で世話になっているのだから当然である。

しかし5月中旬のフランスGPの頃になると、福島原発から直線距離で100マイルの距離にあるもてぎの放射線量を心配する声が何人かのライダーから上がり始めた。「僕は自分のキャリアより健康が心配なんだ」とホルヘ・ロレンソはバルセロナで語り、他のライダーも6月になると同調し始めたのである。

先週の土曜には、ケイシー・ストーナーとロレンソが、もてぎには絶対に行かないと明言するまでになってしまった。しかし何を根拠にそう言っているのだろう?

彼らには残念かもしれないが、私には化学の学位を持つジャーナリストの友人がいる(化学の学位を持っているGPライダーには未だに出会っていないが)。また、「危なくないなら行けばいいじゃないか。日本企業に雇われてるんだし、日本人はそこに住んでるんだから」という、まあ単純な見解を持つジャーナリストもいる。

最も最近のライダーのボイコットは1989年まで遡る(この時はミサノサーキットの安全性が問題となった)。その後インターネットが発達し、気になるならデータを手に入れることもできるし、日本の放射線の状況や、バナナを食べることで浴びることになる放射線量までわかるようになった。そう、バナナである。

成層圏の境である6マイルの高さを12時間飛行すれば、それなりの放射線を浴びることになる。骨折したときのX線は全然気にしない。時速200マイルで転倒すれば、必ずX線だ。

実際このグラフによれば、長時間飛行を年間16回もすれば、原発事故後の福島の待避区域境界に2週間いるのよりも多くの放射線(1ミリシーベルト)を浴びることになる。

さらに言えば地元の病院で受けるCTスキャンは7ミリシーベルトである。先週のザクセンリングで激しい転倒をしたMoto2ライダーのアレックス・エスパルガロはCT検査を受けることになっている。

じゃあ何を根拠に日本に行かないと言っているのか?ロレンソはバルセロナでのレースの前夜にチェルノブイリ(!)についてのドキュメンタリーを見て日本に行くのが怖くなったそうだ。あるおもしろいツイートがある。「もし彼が3月にホラームービーを見てたら、暗いって理由でカタールに行かなかったんじゃね?」

その通り。プレスカンファレンスではライダーの無知振りに失笑が起こる始末だったのだ。それも無理はない。彼らは何か調査をするわけでもなく、調査の必要性を主張するわけでもなかったのだから。ドルナのCEOであるカルメロ・エスペレータが彼らを指して「俺が言うんだから日本に行け」的なことを言ったのを聞いたが、これが最も当事者的発言であった。しかし、ライダーが行きたがらない本当の理由が、単に行きたくないだけだとしたら、放射線は言い訳に過ぎないと言わざるを得ない。

さらに言えば、私たちはカタールでライダーが日本から出荷されたマシンに乗っている最中に、日本人のエンジニアやマネジャーやジャーナリストと固い握手を交わしたのだ。チームの中にはユニフォームまで日本製のところもあった。

日本は営業中である。FIFAクラブワールドカップは東京で12/8-18に開催される予定だし、5月22日には体操世界選手権が10/7-16で開催されることが発表された。F1は鈴鹿で10/7-9に開催されるし、インディカーにいたっては9/18にもてぎにやってくるのだ。MotoGP世界選手権を真に所有するFIMはこの状況を横目で見ながら、ライダーの疑問に応えるために、福島原発を取り巻く状況について独自調査を行うこととした。「現在調査中」というのが7/3にムジェロで発表されたすべてではあるが。

独自調査の結果が(日本政府が言うように)安全と出るか、(ライダーが言うように)危険と出るか、固唾を呑んで見守っているときにあまり参考にはならない発表ではある。体操協会は2か月前に開催を決定しているのに、FIMの次の発表が次の週末(ラグナセカ)とは、いやはや。

なにはともあれ、バイク業界に関わる誰もが日本に何らかの形で恩義があるのだ。日本は過去30年にわたってバイク業界を支えてきたのだし、そのおかげでライダーは、これ以上ないくらい金持ちになれたのだ。

それにパドックにはバイクスポーツで生計を立てている人々がいる。私も含めてだ。それに日本製バイクがMotoGPのグリッドを埋めてくれいてる(17台中11台が日本製だ)。MotoGPのタイヤは日本製だし、125ccのダンロップも神戸製である。さらにMoto2のエンジンはすべてホンダ製で、来年のMoto3のグリッドもほとんどがホンダ製になるだろう。

日本が最高峰クラスを支えている証拠がさらにほしいなら、前回日本製バイクが表彰台に上がらなかったときがいつか考えてみるといい。マーチン・レインズによれば、なんと1973年のスウェーデンGPまで遡る。このときは、フィル・リード、ジャコモ・アゴスチーニ(どちらもMVアグスタ)、そしてキム・ニューコム(Konig)であった。つまり38年にわたって、日本のオフィスでは月曜になるたびにちょっとしたお祝いがあったわけである。

これまでライダーたちは様々な状況で譲歩を勝ち取ってきた。2003年に加藤大治郎が亡くなったことで鈴鹿がGPからはずされたとき、そして2008年にタイヤ供給が一社になった後、タイヤ供給が緩くなったとき、等々。

しかしこれらの事例はテクニカルルールについての話である。今回は、いかにパドックの同胞を支援するかなのだ。わたしをいらだたせるのは、ライダーたちはモアパワーとか、もっとマシンを速くとか言って日本人エンジニアを夜通し働かせた上に、彼らの年収ほどもあるボーナスを要求することなのだ。


既にチーム・マネジャーの内2人が、ライダーとの現行契約を破棄し、今回のような状況で走らないことが契約違反となるような新たな契約を結ぼうとしている。ライダーの多くは年収の1/18(500万ポンド稼いでいるライダーなら277,000ポンド)を失うのは仕方がないとしているが、彼らの無税の銀行口座の問題ではないことはわかっていないのだろうか。

問題は日本を支援し、ライダーがトロイ・ベイリスやギャリー・マッコイが言うところの「ガレージの扉のペンキ塗り」やら「車の板金」やらをしなくて済むようにGP自体を支援することなのだ。

カレル・アブラハムと青山博一は既に日本行きを表明している。一方ヴァレンティーノ・ロッシは流石に16年の経験は伊達ではなく、さらなる情報が出るまでは態度を決めないと言っている。ライダーは一枚岩か?そうではないと私は思っている。もし家にいるライダーに対して、自分は走ると言って日本で金曜の朝にピットの入り口に現れ易々とポイントをゲットするライダーが出るとしたら?口と行動が違うということは十分あり得るだろう。

今回の騒動はマシンとさらにその他諸々を供給している日本と、日本人でないライダーとの間の気持ちの断絶を示すものでもある。この件が速やかに、かつ平和的に解決されることを祈ろう。そしてワークスチームが代役を見つけられることも祈っておこう。残念ながらワールド・スーパーバイクは10/2にマニクールでレースがあるので、喜んでGPマシンに乗るために放射線があろうが無かろうが飛行機に乗って日本に行こうというライダーを雇うことができないのではあるが。

この子供じみたチェスの次の指し手は?日本は既に手を指している。次はライダーの番だ。

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コメント

海外から来るみなさんにも正しい情報がいきわたることを願ってます。ところで僕は北海道在住なのですが、食品の放射能汚染には気をつけようと考えていまして、産地表示などに気を配って食品を購入しています。本州の方々はこの点どのくらい配慮されているのでしょうか?

投稿: watachon | 2011/07/24 08:20

>watachanさん
 私は子供もいないので、産地は気にしていません。基本流通しているものは安全という前提でないとやってられないかなあと。安全でないものが流通したりはしてますが・・・。

投稿: とみなが | 2011/07/24 12:35

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