ライダーの成長に役立つならあらゆることを犠牲にしてもいい
先日のパトリシア・パチェコが最新版となる「MotoGPで働く女性たち(#WomenInMotoGP )」シリーズ。ここからは遡って第1回から訳していきます。
今回はMVアグスタ・フォワード・レーシングのチームマネジャー、ミレーナ・ケルナー氏です。MotoGP公式より。
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ミレーナが最初でMotoGPで得た仕事はロジスティクス(物流/搬送管理)と広報だった。そして2019年、彼女は女性初のチームマネジャーとなる。
子供の頃、彼女は良くGPを観ては、出張が多かった父親にサーキットで何が起こったのか教えていた。その後何年も経った今、ミレーナ・ケルナーはパドックで最も知られた女性の一人となっただけでなく、目指すべきプロフェッショナルとしての見本となっている。そしてその断固たる決意のおかげで、2019年からはMoto2世界選手権を戦うMVアグスタ・フォワード・レーシングを率いているのだ。
バイクレース好き一家で育った彼女は、祖父母に連れられてザクセンリングでの初開催となる1998年のドイツGPを観に行っている。「ザクセンリングから20kmのところで育ったんです。特別なサーキットですね。ライダーがピットに行くには一般エリアを通らなければならないんで、ファンはすぐ近くでライダーを見られるんですよ。その時初めてレース現場に行ったんですけど、まさか何年も経ってまたここにやって来るなんて思いもしなかったです」
ドイツGPの経験の経験がその後の彼女を形作ることになった。ミレーナはヨーロッパ中のサーキットを巡りパドックの雰囲気になじみながら、その住人たちと知り合いになっていく。
サーキットの常連になったミレーナはある時、初めて仕事のオファーを受ける。「サーキットに通い始めて知り合った人の何人かにに言ってたんです。レースに行くのにお金を払うんじゃなくて、お金をもらえるようになりたいから、どこかのチームで働きたいって。最初のオファーは断っちゃったんですが。まだ高校生で、卒業試験も受けてなかったんですよ。でも次に行ったヘレスのGPでまた仕事を紹介してもらって、その時には断れませんでしたね」
1998年にこうしてミレーナはMotoGPの世界で仕事を得ることになった。「モデル(訳注:アンブレラガール?)の仕事だったんですけど、パドックでの本当の仕事と言えるのはチーム・スコットのホスピタリティでした」。世界選手権は最初の内は学費をまかなうためのお金も稼げる楽しい仕事だった。「大学に行く前からパドックで働き始めてました。この生活は楽しいって思っていたんですが、その内ちゃんとした仕事を見つけなきゃと思い始めて、でもここで見つけられましたしね」と笑顔で彼女は語る。
「ホスピタリティで働き始めた時はステファノ・ベドンの指示で動いてました。彼はいろんなことを教えてくれたし、毎年責任をもって取り組むべき仕事をくれたんです」。チーム・スコットでの125cc、250ccの仕事を経てミレーナは新たに立ち上げられたフォワードレーシングでロジスティクスを担当する。そして、ついにMotoGPでの仕事をテック3でのマーケティング及び広報責任者として開始することになる。そこで5年間働いた後、彼女はフォワードレーシングに戻り、以来チームマネジャーとしてMoto2チームを率いている。
ミレーナはパドックで彼女が果たしてきた様々な役割について語ってくれた。それぞれ興味深い違いはあるが、しかしすべてに共通するのは関係性だという。他とは異なる人間関係について思い出しながら彼女は言う。「ライダーの成長を支援するのが好きなんです。たとえbんカル・クラッチローとしばらく一緒に働いてましたが、同じチームじゃなくなるって日のこと、カルが『これでやっと友達になれるね』って言ったんです。ライダーと働くってことは、彼らがやりたくないこともやれって言わなきゃならないってことなんです。だから友情は芽生えにくい。こちらが話すことを敬意を持って聴くことになるんで、ちょっと距離を置いた関係になるんです。でもそれができるからライダーはみんな特別な存在なんですよ」。そしてこうも付け加えた。「でも一緒に働いてる相手とは人間関係ができちゃいますよね。普通の仕事じゃないんです。ほとんどの時間を一緒に過ごしてるんだから」
2019年、ミレーナはパドックでのキャリアの新たなスタートを切った。ドミニク・エガーターとステファノ・マンツィという年齢も性格も異なる二人のライダーを率いるチームマネジャーの仕事だ。「ステファノはずいぶん成長しましたね。今シーズンの初テストのときの振る舞いと今の振る舞いを比べたら別人みたいですよ。こんな風に変化するのを目の当たりにすると、たとえほんの少しだとしても自分がそれに貢献できているのが実感できてとても嬉しいですね。この仕事の一番のやりがいです」
まだ10代でパドックでの仕事を始めたミレーナは自分の仕事の環境が変化していることにも気付いている。毎年様々な分野で仕事をする女性の姿が増えてきているのだ。しかし彼女は言う。「私たちはまだ少数派ですからね」。そしてそれには様々な理由があると言う。「ビジネスの観点から言うと、小さなチームで予算が限られている時に女の子を雇うのってコスト増になるんですよ。一人のためだけに別の服を用意しなければならないし、その上ホテルもシングルルームを予約しなきゃいけない」。しかしこうした制約はミレーナのようにチームにとって欠かすことの出来ない人材となった有能でプロフェッショナルな女性たちによってどんどん打ち破られている。
「そうした話とは別に、もし女の子がパドックで働きたいなら全力を尽くさないといけないと思います。もし何か困難があってもあきらめる必要は無いし、逆にそれが新たなモチベーションになったりするんです」
さらにミレーナは自らの経験から、勉強すること、すごくバイクの技術寄りの話でもできる限りいろいろ[知るようにすることが大事だとアドバイスする。「敬意を持ってもらい、そして自分が主導権を取るためですね。チームのみんなに私がちゃんと見ているとわかってもらうこと、そしてこっちが女だからというだけで上に立てると思わせないことが大事なんですよ。
あと、パドックでいろんな仕事をしてきたおかげですべてが最高の状態かどうかを確認するにはいつ何を見ておけばいいのかわかるんですよ。なんだかんだ言って人生の半分以上をこの世界で過ごしてきてますしね」
最後にミレーナに自分自身について語ってもらった。「私は嫌なやつで仕事中毒で頑固者ですね」。高い能力のおかげでプロとしてここまで登ってくることはできたが、それでもまだ努力が足りないと彼女は思っているようだ。「いつかむくわれるか?後になってみればわかるでしょうね。でも今はマシンの競争力を高めてライダーが幸せになること、それが目標なんです」
ミレーナ・ケルナーとMVアグスタフォワードレーシングとMoto2がサーキットに戻ってくるそれまでの間、#WomenInMotoGP シリーズをお楽しみいただきたい。(訳注:この記事は2020年8月5日のものなので)
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次回はグレジーニのチームコーディネーター、サンドラ・ヴィルケス氏です。
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